今月のファンダメンタルズ vol.4

月刊仮想通貨vol.4 2018年5月23日発売号より

多國間ベースの投資・貿易交渉

トランプ米大統領が3月初旬に発表した鉄鋼に対し25%、アルミに対して10%の輸入制限はその後米中の報復合戦へと発展し 、世界の株式市場は泥沼の様相を呈している。
世界の主要國が自國利益最優先へと舵を切る中、筆者はこの場を借り、日本政府が押し進める自由と公正の投資・貿易新協定CPTPPについて、その注目点と意義についてごく簡単に纏めてみたい。

①CPTPP(包括的及び先進的なアジア太平洋パートナーシップ協定)とは
米國が2017年初頭に交渉の離脫を決めた後、日本が交渉を積極的にリードし11カ國が2018年3月8日にチリで署名し2018年中に発効を目指すTPPの新協定である。
関税撤廃率は高水準の95%、GDPは世界の14%、人口は5億人の環太平洋経済連攜協定である。

②関税撤廃の例外として認められた日本の農産物重要5項目はどう決著したか
重要5項目はコメ、麥、牛肉・豚肉、乳製品、砂糖である。特に注目のコメの豪州からの輸入枠は発効時で6千トン13年目以降で8千4百トンと決められた。
麦は関税額が9年目まで45%削減される。
牛肉の関税は現在38.5%、発効時27・5%、16年目以降9%。豚肉は現在1キロ當たり482円の関税がかけられているが、発効時に125円、10年目に50円に引き下げられる。
乳製品に関しては各國に対して輸入枠が設定されている。

③新協定の政治的意味は
參加國にとって2つの意味がある。
1つは中國が主導するRCEP(関稅の引き下げだけに注力)と補完関係を構築し経済連攜の効果を高めること。
もう一つは農業団体のロビー活動と闘って國內基盤を強化することだ。

④米國參加予定の旧TPPで何を殘し新協定で何を凍結したのか
殘したものは何と言ってもハイレベルの関稅削減と労働や環境の分野における基盤強化である。
そして新協定で凍結した最大のポイントは知的財産の分野である。
著作権の保護期間は50年から70年に延長されていない。

⑤CPTPPで期待される経済効果及び今後の展望
政府試算の新協定に対する経済効果は対GDPで+1・5%である。
米國が參加した場合は+2・5%とされていた。
2017年12月に大筋合意した日・EU EPAは+1%とされている。
また、CPTTPに參加を希望してる韓國、台灣、タイ、インドネシア、フィリピンを加えたCPTPP16カ國では+1%加算されて+2・5%という試算もある。
さらには、米國の復帰や英國、コロンビアなどの參加可能性も考慮すればこの新協定は10年以內に大化けするかもしれない。

以上、簡単に多國間ベースの自由貿易の意義についてふれてみたが、貿易においてはもう一つ公正さも常に考慮されねばならない。
米國が年間8100億ドルという巨額な貿易赤字に苦しみ保護貿易主義政策を執らざるを得ない現狀に一定の理解が必要である。
700億ドルの対米貿易黒字を出す日本が直ちにその是正に向けた対応が急がれるのは言うまでもない。
対米輸出でシェアの大きい自動車部品、電子部品、光學部品、精密機器などの一部を現地生産に切り替えたり、シェールオイル、シェールガス、農産品の一部など、緊急輸入する必要がある。
これらの必要措置で効果が上げられなければ、円高という日本にとって最悪の選択を迫られることになるであろう。

Profile
工藤 富夫
元ダウ・ジョーンズ経済通信社在日代表。
海外の主要銀行、証券会社でトレーダーとして活躍後、ドレスナー銀行東京支店のトレジャリーアドバイザー、住友信託ロンドン現地法人のチーフ・ユーロ・ポンド・トレーダーなどを経験。

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