今月のファンダメンタルズ vol.6

月刊仮想通貨vol.6 2018年7月23日発売号より

米国労働市場の見方

6月1日(金)に発表された5月の米国の失業率は3・8%で4月の失業率3・9%に次いで2000年4月以降18年ぶりに4%割れを記録した。
同時に発表された非農業就業者数も22・3万人増加で予想の18万人を大幅に上回った。
4・1%近辺を半年続けた後の4%割れは米国の雇用市場が完全雇用状態にあると言っても過言ではなかろう。
イエレン前FRB議長時代から議論されてきた労働市場のスラック(需給の緩み・労働力の未活用)についても労働参加率を除いて改善の兆しが伺える。
懸案の平均時間給は前年同月比で2・7%増で4月の2・6%増から加速した。
広義の失業率(U6、不本意非正規労働者)も5月が7・6%で4 月の7・8%より低下している。一方労働参加率は5月が62・7%、4月が 62・8%、3ヶ月連続低下となっている。
労働参加率についてはリーマンショック以降67%から下り続けているが、分母が16歳から死亡年齢までと高齢化で拡大し続けるので上がりにくい傾向があることを考慮すべきであろう。
何れにしても労働市場の需給は相当逼迫化しており、2018年の利上げは年3回から4回に変更されるであろう。
以上述べたごとく、米国は2008年のリーマンショックで世界で最も困難な局面に遭遇したにも拘らずFRBの賢明な舵取りで見事に復活を果たした。
以下そのFRBの金融政策の目的と特徴について概観し、経済の立て直しを比較的短期間で実現した遠因を探ってみたい。
FRBは厳密には中央銀行ではないが、一般的に政府と中央銀行は政策目標は共有し政策遂行手段では中央銀行は独立性を維持するというのが先進国では基本である。
米国では政府とFRBの共通目標は経済の持続的成長であり、FRBの独立した政策手段は雇用の拡大と物価と為替の安定である。
これに対し、ECBや日銀の独立した政策手段の目標は物価の安定のみである。
FRBは雇用の拡大を政策の中心に置いているのが他国と違う特徴である。雇用の拡大で3つの重要なポイントがある。
その一つが労働生産性の伸び率である。先進各国で労働生産性が低下する中米国でも労働生産性の伸び率は1990〜2004年で2%、2005〜2018年年で1%と低下している。
パウエルFRB議長も議長就任時の演説で労働生産性の向上を真っ先に取り組むと述べている。
二つ目に注視すべきはFRBが生産年齢人口の伸びを吸収できる雇用の拡大(最低限の月間非農業就業者数)をしっかりと管理していること。
この数字がぶれると為替や金利が動くのは市場がこのことを認識しているからである。
三つ目は労働市場にスラックがある場合、その需給の緩みが及ぼす賃金や物価への影響を正確に測りながら適切な金融政策を実施していること。
以上の重要ポイントを踏まえて、毎月発表される米国雇用統計では、非農業就業者数と失業率に加えて①平均時間給、②週平均労働時間、③労働参加率④27週以上の長期失業者比率、⑤不本意非正規労働者比率(広義の失業率)などを細かく調べて個人のデータ・ベースに記録する。
そして年8回行われる連邦公開市場委員会の議事録や年4回FRB議長の記者会見をしっかり読み、経済データとFRBの政策決定を時系列で整理する。
これらの作業を怠りなく行えば、FRBは市場との対話を最重要視しているので大きく読み違えることはなかろう。

Profile
工藤 富夫
元ダウ・ジョーンズ経済通信社在日代表。
海外の主要銀行、証券会社でトレーダーとして活躍後、ドレスナー銀行東京支店のトレジャリーアドバイザー、住友信託ロンドン現地法人のチーフ・ユーロ・ポンド・トレーダーなどを経験。

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