今月のファンダメンタルズ vol.4

月刊仮想通貨vol.5 2018年6月23日発売号より

フィンテックがもたらす破壊的創造―銀行業のケース

フィンテックに関わる技術のうち、ブロックチェーンは金融以外の領域でも幅広く応用されることが期待できることは前回のご説明で理解していただけたと思う。
他方、フィンテックは決して近未来のビジネスにのみ不可欠なだけではない。
既にごく身近に一見分かりにくい形で導入されているフィンテックがある。
その典型的な例が「トランザクション・レンディング」である。
楽天などのeコマース運営会社と呼ばれる業態では、ネットワーク上の加盟店が運営会社のeコマースプラットフォーム上で仮想店舗を開き商売を行う。
加盟店の中には、当座のつなぎ融資を銀行に仰ぎたくても、融資を受けられないところもある。
その際に、eコマース運営会社が実質的に融資を行うことを「トランザクション・レンディング」と呼ぶ。
具体的には、eコマース運営会社が自社発行もしくは他社のクレジットカード会社の代金決済(トランザクション)の際に、加盟店に対して利用者(買い物客)の代金を立て替え払いする。
加盟店の側から見ると、立て替え払いをしてもらえることで資金繰りが楽になる一方、運営会社の側では加盟店に対する信用供与、つまり融資を行ったのと同じことになる。
eコマース運営会社には、ごく自然な形で加盟店の業況に関するデータも蓄積されていく。
これが、さらなる信用供与の判断材料となるわけだ。
これはまさに、銀行のローン業務の形態に他ならず、運営会社と既存の銀行は真っ向からぶつかり合う構図にある。
そして、現時点では銀行側にはほぼ勝ち目がない状況となっている。
なぜなら、eコマース運営会社側には膨大な顧客データの蓄積とフィンテックの応用によるデータ分析のノウハウがあるのに、銀行側にはこれらの点で大きく出遅れているからだ。
攻める異業種参入組がフィンテックで銀行の「業務」の可能領域を拡げていくなか、守る銀行はもはや来店客でごったがえすことはない、お荷物となった銀行の「器(=店舗)」の削減に苦慮しているのである。
銀行にとっては、超低金利の環境が長引くことよりも、むしろフィンテックの流れに乗り切れていないうちに、気が付けば異業種に収益性の高い分野が侵食されていたという事業環境の方がより深刻である。
メガバンクは、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)導入による事務の効率化や、STP(ストレート・スルー・プロセッシング)による一貫した取引過程の構築などを急いでいる。
ただし、これらの技術もフィンテックにより支えられているわけで、フィンテック企業の取り込みに主力金融機関は躍起になっているのが現状である。
生き残りを賭けた戦いはまだ緒についたばかりである。
さて、次回は、フィンテックがもたらす破壊的創造が、より目に見える変化をもたらしている資産運用ビジネスのケースを実例に即して考えてみよう。

Profile
北村 裕
日本の証券会社に勤務後、米国留学、ニューヨークにて投資銀行業務を経験後、外資系メディアで編集責任者などを歴任。大手運用会社で外資ファンドの調査、提携業務などに長年携わる。現在も金融業界で勤務するかたわら、最新の金融工学などの普及も志す。

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