今月のファンダメンタルズ vol.2

月刊仮想通貨vol.4 2018年5月23日発売号より

ドル/円と米長期金利

今、一番気になっているのが、米長期金利(米国債10年物利回り)の動向です。
そして、その方向性を占う意味からは、米雇用統計が重要になりそうです。
ここ2年ぐらいの米雇用統計は、投機筋しかやっておらず、本当に方向感がなく、自分の中では、過去の遺物とさえ思っていました。
ところがここにきて、米長期金利が上昇し、一時3%台をつけるに至って、米雇用統計の中でも平均時給が、注目されています。
なぜなら、長期金利上昇の原因となる投資家の期待インフレ率(将来の物価上昇率)を押し上げる大きな要因のひとつが、この平均時給の伸びだからです。
つまり、平均時給が強ければ、再び長期金利が上昇し、ドル/円の買いが改めて強まる可能性はあります。
ただし、今、ドル/円では、日足でも、週足でも、月足でも、相場が動き出すタイミングを示す複数の移動平均線の収束(集まってくる)が起きています。
たとえば、週足で申し上げるのなら、5、10、25、90、120の各週の移動平均線が、実勢値の上下を包むように集まってきており、レジスタンスであり、サポートになっています。
それが意味するところは、当面はレンジ相場が続き、その後収束しきると、相場が動き出すということです。
平均時給が大幅に上昇すれば、長期金利がさらに上昇し、ドル買いになるものと思いますが、しかし、上げが長続きするかは疑問です。
なぜなら、それは、投資家の台所事情からです。
というのも、長期金利の上昇は、債券価格の下落を意味しており、2014年後半にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)を皮切りに、運用利回りが出なくなった円債から米国債10年物への乗り換えが、国内機関投資家や地銀を含む銀行の間でかなり活発化しました。
尚、この時期の米国債10年物利回りは、一時1・35%近辺まで下がるなど、決して債券価格の持ち値は良くなく、このまま米国債10年物利回りが上昇すれば、既に購入した米国債が多大な評価損を計上する可能性があります。
つまり、多大な評価損を既存の米国債で抱える投資家が、利回りが良くなったからと言って米国債を新規で大量に購入するだけの余力があるのかということです。
しかも、2017年にトランプ大統領が就任すると、財務省・日銀は、同大統領を警戒して、トークアップ発言(口先で介入して円安に誘導しようとすること)をいっさい止め、代わりにGPIFなど公的運用機関に、米債購入と称してドルの買支えを委託した節があり、その分また公的運用機関の米国債残高が増えた可能性があります。
したがって、2014年後半以降、日本の機関投資家は、過剰なほどの米国債購入をしており、ここからさらに米国債利回りの上昇(価格下落)が進行すると、多大な評価損が出ることになり、むしろ米国債を売って損切りして得たドルを売って円に換える可能性が高いと見ています。
その辺のところが実際どうなるかは、5月以降、新年度の計画が決まる本邦機関投資家の動向を見る必要があります。
個人的には、ドル/円の上値は110・50近辺と限られ、機関投資家が保有する悪い持ち値の米国債の売却、そして円転(ドル売り円買い)から、結局は下げ、100・00を目指すものと見ています。
つまり、2014年後半以降の米国債購入時の為替レートの平均は、良く見積もっても115・00近辺だったものと思われ、債券価格でやられ、しかも為替でやられる二重苦に陥る可能性があります。

Profile
水上 紀行
1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)に入行。1983年よりロンドンや東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。1995年より在日外銀において為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。バーニャ マーケット フォーカスト代表。

関連記事一覧